欧米や中国に行くと、シンメトリー(左右対称)な建築物の多さに驚かされる。
日本にいると気づかないが、日本の建築物は
ほとんどアシンメトリー(左右非対称)な構成をしている。
日本で、完全にシンメトリーな建築物を探しても、古いものでは神社仏閣、
新しいものなら西洋由来のモダンデザインの建築物以外見かけない。
地方都市でまだ健在な伝統的和風住宅は、必ず左右非対称な構成をしている。
和風とシンメトリーは相容れない。
これには、歴史的な背景があるようだ。
縄文土器の美しさを再発見した、画家の岡本太郎が指摘したように、
日本の美意識の根底には、縄文土器の「おどろくほどはげしい」隆線紋の力強さと
アシンメトリーがある。
縄文時代の後、稲作を伝来した渡来文明による
シンメトリカルな土器を作る弥生時代になるが、
縄文時代の八〇〇〇年に較べれば、弥生時代はたった六〇〇年、
弥生時代から現代までも、たかだか二〇〇〇年程度の歴史しかない。
日本人には、縄文時代から受け継がれるアシンメトリー(左右非対称)を
愛する血が流れている。
弥生時代以降、渡来文明との衝突のたびに、
シンメトリーとアシンメトリーの葛藤が繰り返され、
日本では、渡来文明がもたらすシンメトリーは、
権威主義と分かちがたく結びついてしまった。
作家の池澤夏樹が、その著書「母なる自然のおっぱい」の中で、富士山を
「陳腐なほどのシンメトリーだから、これほど印象的な山はない」
と書いたのは、わが国の美意識では権威主義は陳腐であり、
権威主義的だから富士山は霊峰たりえたのだということだろう。
(木全)
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