次に、森繁さんの「食文化考」。
一つのお膳に、懐石風に9種類もの品が出てくると、
さて、何から口にするか?
森繁さんとて、しばし考える。その様子も面白い。
映画『社長太平記』や『駅前旅館』の、あの温厚な顔で、
一通り、目で楽しんだ後に、静かに決断するのである。
近代デザインの生みの親、ドイツのワルター・グロピウスが、
日本食の色彩の組み合わせ、そのデザインやレイアウトに
いたく感動したという話のごとく、
森繁さんも、目でかなりの部分を堪能し、お酒の注文に入る。
この品には、赤ワイン、こちらの品には日本酒が合うと、
9品それぞれに敬意を払って、9種のお酒をチョイスするのには驚いた。
そして一品づつ、目や舌で味わいながら、箸を、杯を重ねるのは、
まるで映画の中の” 森繁社長“さんそのものだ。
9種類の懐石料理に四つに取り組んでいるがごとくの食べぶりには、
年齢を感じさせない迫力があった。
それが、森繁さん93歳の誕生日の前の日だったことを、
今でも印象深く覚えている。
(つづく)
(K.K.)
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