プロダクトデザイナーが転職する際のポイントを分けて掲載しています。
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今回は業界による違いについてです。
転職紹介の仕事をしていると、業界によって求められる人材が全く異なると感じます。A社では非常に高評価だった人が、B社では受からない、という状況がよくあります。以下に業界ごとの一例を上げます。採用試験ではこのような能力を、新卒や若い方は潜在能力として感じさせられるか、中堅以上では実務経験として提示できるかどうかが合否の分かれ目になります。
(同じ業界内でも企業や、その時にいる他のメンバーによっても異なります。構造に強いメンバーが多い場合はスタイリング重視のデザイナーを求める等です)
自動車関連
デザイナーとモデラーが分業していることもあり、デザイナーは感情に訴える魅力的なスタイリングデザイン、それを表現するスケッチスキル、自動車を360度から表現できるスケッチスキルが求められる。また、大変複雑な曲面を扱うのでそれを理解できる高い立体認識能力も必要。エクステリア(外観)とインテリア(内装)が分業されており、中堅の募集では適した経験がなければ採用してもらえない。
自動車デザイナーの中途採用では、そもそも自動車デザイナー以外は門前払いとなることが多い。(電気自動車の台頭を背景として、あえて『自動車デザイナー以外も対象とする』と記載している募集も出てきている)
3Dモデラーは、デザイナーが描いたスケッチを、複雑な自動車の条件を踏まえつつ実際の立体形状に3D-CADを駆使して落とし込んでいく。そうした3Dスキルと高い立体認識能力が必須。クレイモデラーはインダストリアルクレイ(デザイン用粘土)を使ってデザイナーの思い描く形を立体形状に具現化する。同様にクレイを思い通りの形状に削り出すスキルと高度な立体認識能力が必要。
カラー(CMF)デザイナーはコンセプトに沿ったカラーリングを提案する能力と、それをデザインに興味のない経営陣が納得するような理由づけができることが必要。
家電
スケッチで描いた形状をエンジニアと協議しつつ、3D-CADで実際の形状に落とし込む。仕上げはデータをレンダリングソフトにもっていき、レンダリングする。大企業であれば契約社員の3Dモデラーがいる場合があるが、ほとんどの企業ではデザイナーも3D-CAD能力が必須。また、デザインコンセプト立案のためのリサーチや、CMFの新技術情報の収集、トレンド把握にもかなりの時間を割いている企業が多い。
中企業、新興企業であればとにかくスピードが重要。パーツレベルまでデザイナーが3Dで作りこみ、そのまま製品化して時間短縮している企業もあれば、逆にデザイナーはIllustratorで二面図やイメージ画だけ描いて、あとは製造を担当する中国企業が3Dにして試作してしまう、というケースがある。
求められる能力は、大企業では同業製品のデザイン経験、特にコンセプト立案のためのリサーチや分析を深くしている企業が多いため、そうした経験のある方。また、電気部品を内蔵する製品のデザイン経験がないとそれを理由にはじかれることがよくある。最近ではUXデザインの視点で上流から下流まで提案できること、をポイントにする企業も多い。
医療業界
流れ自体は概ね家電と同様。しかし最も大きなポイントとしては、見た目で選ばれる製品ではないため、いかに医師と患者が使いやすいデザイン画できるか、という点をベースにデザインする点。また、医療業界特有のさまざまな制約条件があり、それをクリアしないと発売できないため、デザイナーが望んだ形状に全くならないことが多々ある。それをクリアしつついかに使いやすいデザインに近付けるかが重要。
某医療機器企業のデザイン部長に聞いたところによれば、同社では何人か家電業界から転職者を受け入れたが、ベテランクラスになると全く常識が通じないので戸惑ってしまい、結局短期間で転職してしまったとのこと。それほど業界での違いは大きいとのことだった。
生活用品
商品企画を半ば兼ねていることが多く、企画力、コスト意識が大変重要。材料、樹脂に対する知識や成型に関する知識も他業界よりも強く求められる。可動する製品も扱っている会社であれば、ギミック(部品の動きをどうやって実現するか)に対する知識も重要。また、一人当たりが扱う製品数が多く、ある生活用品メーカーの転職希望者の作品集には、数百におよぶ製品化実績が掲載されていた。その方はいかに整理して掲載するかに苦労していた。
家電と同様、デザイナーが3Dまで作りこむ企業もあれば、Illustrator二面図やイメージ画だけで十分な企業もある。布製品も扱っている企業は二面図のみの企業が多い。
玩具/文具
生活用品に近いが、さらに商品企画力、ギミック提案力、コスト意識が求められる。また、入社後に製品安全の基準をきっちりと教え込まれる。玩具と文具は企画部分や大きく異なるが、スキル的には近いものがある。なお、玩具というとネフのようなおしゃれな玩具を夢見ていたのに、実際に入ってみるとトーマスやアンパンマン、ミッキーを商品につけただけで大ヒットしてしまうことにショックを受ける方も多い。
腕時計
流れ自体は家電製品に近いが、細かい製品のデザイン経験が求められる。また、3D-CADでの立体デザイン能力に加え、ファッション的なセンスが重要で、男性向け、女性向けのデザインを描き分ける能力が求められる。
デザイン事務所
デザイン事務所は、手掛ける商品によって上記のそれぞれの能力が求められる。多くのデザイン事務所がメインとしている分野があるため、基本的にはそこに合う方。しかし、「実は今医療機器のデザイン依頼が入ってきていて、今後増えそうなので医療機器分野の経験はプラスになる」というようにメインとなっていない分野でも採用になる可能性がある。
以上、あくまで一例ですが、このように千差万別です。また、もっと大きな枠で「大きな製品の経験」「小さな製品の経験」というのも全く異なるため、ある手のひらサイズの製品のメーカーの採用試験では、自動車のような大きな製品デザイン経験のみだった方がその理由で落とされたことがありました。
異なる業界に転職するために一つアドバイスです。
多くの方は作品集に自分が手掛けた商品の最終形状を載せてくるのですが、最終形状の見方は上記のように業界によって異なります。
従って、そこに至るプロセスまでを作品集に載せることが非常に重要です。最終形だけでは担当者が判断できません。プロセスまで掲載してもらえれば、自社の業界での内容に変換して判断することができます。手描きスケッチはもちろんのこと、途中での発泡モックや部分的な検討、さらには他部署との意見の衝突をこのように回避した、等のエピソードを載せても効果があります。
若い方は、学生時代の作品集を別添資料として合わせて出すことをお勧めします。わざわざ作品集に組み込まなくても、別冊で十分です。現在の仕事と違う側面が見せられるので、プラス効果があります。
<来週はまた別のテーマです>(下村航)
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