プロダクトデザイナーが転職する際のポイントを分けて連載しています。
※1年ほど前に掲載した内容を加筆したものです。一気に読みたい方はこちら。(ただし2019更新情報が反映されていません)https://www.bt2.net/oyaku
今回は前回に引き続き、「手描きスケッチの重要性」についてです。
きれいな完成予想図はコンピュータツールを使ったレンダリングでOKです。しかし手描きのラフスケッチは考えるための道具であり、かつ相手(クライアント、同僚、上司、他部署)に伝えるコミュニケーションツールでもあります。
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ある企業に就職希望者の作品集を持参して説明に行った時のこと。
先方の選考担当のデザイナーの方がその作品集の手描きラフスケッチを見て、「彼は絵が描ける方ですね。うちの製品は円の部品が多いので、この楕円を見ればある程度能力がわかります」
そしてその候補者は書類選考を通過しました。
さらに、その次の面接でのこと。その担当デザイナーが就職希望者に、「突然ですが、そこのホワイトボードに簡単でけっこうですので○○のラフスケッチを描いてみてもらえますか」
○○には製品の種類が入ります。その会社は○○の専門メーカーだったので、そこに入ればその製品をデザインすることになります。
面接終了後にその担当者に聞いたところ、「ホワイトボードは描きづらいのでうまく描けないかもしれないが、それでも描いてもらうことでどの程度の理解があるかがわかる」とのことでした。
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私の尊敬する故 加藤雄章先生が、トゥールズアカデミーのインタビューで以下のようにおっしゃっています。
(以下ホームページより引用
http://www.tools-web.com/academy/004SMR/interview/first.html
http://www.tools-web.com/academy/004SMR/interview/third.html)
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絵を重視するというのは、絵の上手い下手じゃないんですよ。
デザインを発想するところでは、生身の人間が、手を使いながらものを描く、そして描くことで頭を活性化する──それが大事なんですよね。
(中略)
ただ、僕たちはデザイナーだから、何のためのスケッチなのかを忘れてはいけない。
僕たちにとって絵は、的確に、速く、相手を説得するためのコトバなんです。
だから学生にも、僕らの絵は記号でいい、と言ってるんですよ。
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自分の意思を「的確に」伝え、相手を説得するには、やはり練習が必要です。
参考になるスケッチの本を3冊ほどご紹介します。
スコット・ロバートソンのHow to Draw
-オブジェクトに構造を与え、実現可能なモデルとして描く方法
スコット・ロバートソン (著), Scott Robertson
この本は線画でさまざまなものをスケッチできるようになることに重点が置かれた本です。上記の画像のように、正確な形状を正確にパースを取って描くための説明が非常に丁寧に載っています。また、飛行機と『車輪付きの乗り物』についてはかなり詳しく掲載されています。カースケッチではなく、「車輪付きの乗り物」と書いたのは、表紙にもあるように全く新しい乗り物を描けるように指導されているからです。飛行機もアニメや未来設定でも使えそうな飛行体が多数掲載されています。一方で、着色方法にほとんど触れていません。
Design Sketching
KEEOS Design Books (Klara Sjölen and Erik Olofsson)
英語のスケッチの本ですが、スウェーデンのデザイン学校が中心となって作ったようです。
他の本との違いとしては、それぞれのスケッチに何を使って描いたかが記載されている点。例えば「青鉛筆」だったり「黒鉛筆、ボールペン、マーカー、楕円定規」「黒鉛筆、Painter」「ペン、マーカー、Photoshop」等。
おそらくその学校の学生のスケッチでしょうが、手描き説明用スケッチをメインとして構成しているので、とても参考になります。また、最終章でマーカーで簡易に陰影だけをつけたラフスケッチの描き方を、ステップバイステップで解説しています。
※日本のAmazonでは扱っていないようです。。。本のタイトルに貼ったリンクは海外のAmazonのサイトに飛びます。
気になるモノを描いて楽しむ 観察スケッチ
檜垣万里子 (著)
こちらは少し変わったスケッチです。twitter等で「#観察スケッチ」で検索するとたくさんの方々が身近な商品を観察してその構造を丁寧に描いた手描きのスケッチが多数出てきます。
この本は、その中でも特に数多くの素晴らしいスケッチをアップしていたプロダクトデザイナーの檜垣万里子氏の「観察スケッチ」を集めた本です。特に学生さんや若いデザイナーは、ぜひ参考にして自分でも描いてみていただきたい!描くだけでスキルアップになります。転職したいという方で「現職では希望の分野の製品ができない」という方も多いのですが、その分野を希望している、という気持ちを作品集に示せると強いです。
今後転職したい分野の製品を「観察スケッチ」で研究・分析して、多数掲載しておけば、「当社の分野は未経験だが、いろいろと勉強しているから入ってから即戦力になるまで早そうだ」と思ってもらえると思います。
どんな職種でも採用試験で面接を必ず行うのは、候補者のコミュニケーション能力を知るためです。デザイナーは言葉に加えて、絵でもコミュニケーションします。絵によるコミュニケーションは、言葉がわからなくても世界共通に通じるという利点もあります。これもデザイナーの強みだと思います。
ポートフォリオには、最終レンダリングだけでなく初期段階の手描きアイディアスケッチを加えることを強くお勧めします。
<追記>
手描きスケッチと言っても、必ずしも紙と鉛筆やマーカーだけをさすわけではありません。ある自動車メーカーのデザイナーの方から「手描き能力」といわれたのは、「ペンタブを使ったPhotoshop上でのカースケッチの能力」でした。
※マーカー=古いというのも正確ではありません。多くの企業は着色はPhotoshop等ですが、ある最先端の企業では「ある段階ではマーカーでのスケッチを現在も採用している」とのことでした。また、某化粧品メーカーの中途採用の課題は、「当社ブランド○○で、コンパクト、ボトル等をデザインしてください。2週間後、来社いただきプレゼンしていただきます。ただしPC禁止!着色もマーカーや色鉛筆等を使うこと。途中のスケッチも持参すること。」というものです。
<来週はまた別のテーマです>(下村航)
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