『野次喜多本』登場人物の新たな“ちょっといい話”(18)恩師・寺田先生

 


(2019年1月31日の北陸中日新聞 朝刊より)


(恩師・寺田先生の似顔絵)

金沢での『野次喜多本』100人似顔絵展は、新聞記事を見たからといろんな人が見に来てくれた。
中には、私の恩師である寺田先生の絵の前で、私もこの先生に教わったという女性が現れたから、
今、私もその先生の消息を探していると話した。

その女性は、先生のご近所住まいで、先生宅に伺ったこともあり、「探してみましょう」と帰られた。
翌日の午後、転居されていた先生のご子息宅までわかりました、とお電話を頂いた。
3年余り探していたのが“一挙に解決”、胸がスーとし、マスコミの力は凄いと思った。

60年前、私が金沢美大入試を決めたのは、入試3か月前の12月だった。
高校の美術の寺田先生に相談に伺うと、金沢美大入試は学科試験の他に実技試験があると。
3か月しかないが「一生懸命にやりなさい」とアドバイスをもらった。
自宅からの通学では間に合わないので、市内に下宿し、放課後デッサンなどの教えを乞うた。
色彩の課題テストもあるというので、寺田先生は、
街の看板をしっかり見て配色を研究しなさいとおっしゃるから、
毎日の通学は看板ばかり見て歩いた。そして配色を覚えた。

進路を3か月前に決めて入学できたから、私など、
この大学の選択で一生が決まった、稀に見るハッピーな人間だ。
時間がなくとも「一生懸命にやりなさい」との一言は、
今にして思うと素晴らしい言葉、師に感謝。

その恩師、寺田先生の消息が知れ、今度のお盆には、お礼のお墓参りができると、
似顔絵作者の黒澤さん(寺田先生は彼の恩師でもある)と楽しみにしているから、
二人には“ちょっといい話”になった。

(喜多謙一)
 

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