工業デザイナー第一世代・柳宗理氏の証言(4)デザインの意味

新国立競技場の総工費は、昨年の基本設計時の見積もり1625億円から、
今年の再見積もりで2520億円に膨らみ、
巨額の税金を使うという世論の声で、安倍晋三首相の建設計画白紙撤回と、
何ともお粗末な結果を・・・露出したというところか。
東京新聞7月8日掲載の「新国立競技場 アーチの大きさ図解」を見ると、
何とも化け物を作る構造に見えてくる。自動車のデザインならいざ知らず、
建築物で屋根のスタイリング優先のみでは、機能が置き去りになっているように
思える。

ふと思い出したのは、柳宗理、師の言葉である。
「デザイン・プロセス
デザインの成功如何は、デザインするプロセス如何による。
デザインするにはワークショップが大切である。
紙と鉛筆だけでは、デザインの基本的発想も、美しい形態も出て来ない。
ワークショップで物を造りながら、試み、考えるということが、
デザインする上での最も有効な基本的態度である。」
「デザインの構想は、デザイン行為の中で、それが完成するまで
刻々変化するのが当然である。だからデザイン行動の最初に、
アイデア・スケッチとか、プレゼンテーションの絵を綺麗に画いて、
基本的スタイルを、それによって方向づけることはナンセンスであり、
このような方法は虚偽のデザイン行動と言われるべきである。」
(柳工業デザイン研究会、「Yanagi Design―Sori Yanagi and 
Yanagi Design Institute―」、平凡社、2008年、61・62ページ)
師の言葉にあるように、
「ワークショップで物(模型)を造りながら、試み、考えるということが、
デザインする上での最も有効な基本的態度である。」
基本をおろそかにし、安易に決めたことが振り出しに戻る結果になったように思う。
私は、1964年の東京オリンピックの年に名古屋に就職したので
10月の東京オリンピック本番はテレビでしか見ていないが、
1984年のロサンゼルス、1988年の、夏のソウル、冬のカルガリー、
1992年のバルセロナオリンピック等のメイン会場を、
スポンサー業務に関係したので全て見ている。
中国出張では、北京オリンピックの会場を見て来た。
思うに、そろそろ会場など建物のハード面より、
ソフト面の「おもてなし」に焦点を絞り、世界各国の若人を一万人ぐらい招待し、
日本を見てもらうアピールをすることに専念した方が良さそうである。
またオリンピック発祥のギリシャに学ぶなら、屋根のない青空のもとでの競技を
提案しても良さそうに思うし、雨が降れば晴れる日まで待てばいい。
オリンピックとて、余裕を持った”我が町の運動会”にした方が
身近でいいように思うが、どうだろう。
(喜多謙一)
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