前回、西洋のシンメトリー(左右対称)に対して、
日本人には縄文時代から受け継がれるアシンメトリー(左右非対称)を
愛する血が流れているという話をした。
縄文時代から時が流れ、三〇〇年間の鎖国が続き、
渡来文明から隔絶された江戸時代に、
アシンメトリーという日本人の美意識は再び花開き、
市民文化として洗練された。
浮世絵に代表される江戸時代中期以降の洗練された美意識が、
ジャポニズムとして十九世紀の西洋に受け入れられ、
アール・ヌーヴォーという美術運動を巻き起こすきっかけになった。
十九世紀のヨーロッパは、工業化社会の初期で、
単純な旋盤やフライス盤でできる、不細工でシンメトリカルな製品しかなく、
人々はシンメトリーな製品の退屈さや陳腐さに辟易していた。
アール・ヌーヴォーは、西欧で唯一、シンメトリーとアシンメトリーの
葛藤の時代だったと言っていいだろう。
その後、西洋は、モダンデザインの還元主義的な歴史分析により、
シンメトリーが失地回復を果たし、現在に至っているが、
工業デザイン大国となり、モダンデザインを信奉する日本は、
今でも、アシンメトリカルな美意識を堅持している。
スズキ「ジェンマ」の左右非対称なフロントライトのレイアウトや、
写真の日産「キューブ」のアシンメトリカルなリアウインドウの構成は、
間違いなく、日本のオリジナルデザインだ。
シンメトリーに対するアンチテーゼを発信し続ける日本だからこそ、
工業デザインで世界の注目を集めているのだろう。
(木全)
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